何度言っても、また同じことをする。
分かっていても、私はイライラしました。
祖母と暮らしていて、しんどかったことのひとつが、「やめて」と言っても同じ行動を繰り返すことでした。
火にかけているやかんに手を出そうとする。
炊飯中の炊飯器を開けようとする。
そのたびに止めて、
「危ないから、やめてね」
と説明します。
祖母は「うん」と答え、その場ではやめてくれました。
でも、少しすると、また同じことをします。
私は最初、伝え方の問題だと思っていました。
もっと優しく言えば伝わるかもしれない。
理由をきちんと説明すれば、分かってくれるかもしれない。
何度もそう考えました。
でも、祖母の場合は、言い方を変えるだけでは解決しませんでした。
▶プロフィール
その場では、分かっていた
祖母は、私の話をまったく理解していなかったわけではありません。
「危ないから触らないでね」
と伝えると、その場では「うん」と答えて、手を止めます。
だから私は、
「今、分かったって言ったよね」
「さっき説明したばかりだよね」
と思っていました。
何度も繰り返されるうちに、だんだん声が強くなりました。
でも祖母にとっては、さっき注意されたこと自体が、記憶に残っていなかったのだと思います。
認知症では、新しい出来事を覚えることが難しくなり、同じ質問や行動を繰り返すことがあります。
もちろん、認知症の症状や程度は人によって違います。
祖母の場合は、その場では理解できても、伝えられた内容を覚えておくことができませんでした。
そのため、祖母にとっては、そのたびに初めて注意されたようなものだったのだと思います。
▶ 認知症の方と関わるときに大切なポイント|国立長寿医療研究センター
分かっても、イライラはなくならなかった
「わざとやっているわけではない」
「伝えたことを忘れてしまうのは、認知症の症状」
頭では分かっていました。
それでも、同じことが何度も起きれば、しんどいものはしんどいです。
火にかけたやかんに手を出されれば、やけどをしないか心配になります。
炊飯器を開けられれば、食事の準備が止まります。
子どもが泣いているときも、祖母が危ないことをしていないか気にしなければなりません。
理由を理解できたからといって、毎回穏やかに対応できるようになったわけではありません。
「またか」
「どうして分かってくれないの」
そう思いました。
実際に、祖母に怒鳴ってしまったこともあります。
▶ 限界だった私は、祖母に怒鳴ったことすらちゃんと覚えていない
言い聞かせるより、起きにくくする
少しずつ、私は考え方を変えました。
何度も「やめて」と言って覚えてもらうのではなく、同じことが起きにくいようにする。
使っていないやかんは片付ける。
炊飯器などの家電は、使わないときはコードを抜く。
触ってほしくないものは、見えない場所へ移す。
食べ物のストックも、祖母から見えない場所へ置く。
言葉だけで止めるのではなく、触れないようにする方法へ変えていきました。
そのうち、私自身も食べるものがなくなり、食事を後回しにするようになりました。
気づいたときには、産前より体重が5キロ減っていました。
家の外へ頼ることも必要だった
家の中だけで対応することにも、限界がありました。
祖母がデイサービスへ行っている時間は、祖母の行動を気にしなくてもいい時間でした。
ただ、その間は子どもの世話や家事があり、私が十分に休めていたわけではありません。
当時の私は、ショートステイを使うことに抵抗がありました。
自分が楽をするために祖母を預けるようで、逃げている気がしていたからです。
その後、ショートステイを利用するようになり、初めて祖母と一晩以上離れる時間ができました。
祖母と離れることで、気持ちを少し落ち着かせることができました。
▶ ショートステイを初めて使った日|罪悪感と、楽さと、「おかえり」と思えるまで
「やめて」が通じないとき、言葉だけで解決しようとしない
認知症のある人への伝え方を工夫することは大切です。
短く、具体的に伝える。
一度にいくつも言わない。
怒らず、急かさずに話す。
そうした関わり方で、落ち着くこともあります。
でも、それを家族が毎回できるとは限りません。
伝え方を変えても同じことが続く場合は、言葉だけで止めようとせず、
- 危ない物を移動する
- 鍵やゲートを使う
- 見守る人を増やす
- デイサービスやショートステイを利用する
- 起きていることをケアマネジャーに具体的に伝える
といった方法も必要です。
相談するときは、
「認知症の対応が大変です」
だけではなく、
「炊飯中の炊飯器を何度も開ける」
「火にかけたやかんへ手を伸ばす」
「言葉で止めても、すぐ同じことを繰り返す」
と具体的に伝えたほうが、困っている状況を理解してもらいやすくなります。
分かっていても、つらいものはつらかった
祖母は、私を困らせるために同じことをしていたわけではありません。
私の説明が下手だったからでもありませんでした。
それでも、一日中同じ対応を繰り返す生活はつらいものでした。
「認知症だから仕方ない」と理解することと、穏やかに対応し続けられることは別です。
わが家では、言い聞かせて止めようとするだけでは続きませんでした。
隠す。
移動する。
区切る。
人やサービスに任せて、離れる。
そのように、同じことが起きにくい状態を作るほうへ変えていきました。
同じ時期の生活全体については、こちらに書いています。

